ビジュアルファシリテーターの阿呆な研究

webディレクターが上流工程を進行するときに必要な5つの力(=生態系の中で生きていく力)

img_150803デザインのディレクションをやっていると、「なんでこの組織って、こんなやり方・考え方にとどまっているんだろう?もっとこうした方がいいのに。もっともっと変えたい!」と思うことが本当にたくさんある。
クライアントワークしかり、自社サービスしかり。

自分ならもっとうまく自社サービスのデザイン考えられる、と思って受託から自社サービスに転職してはや6年半。
「自分ならもっとうまく!」はとんでもない思いあがりだった。
やっぱりまだまだだなあー、もっともっと知らなきゃいけない、考えなきゃいけない部分があるっていう事実に直面している。
UX戦略フォーラムピーターモービル氏が「生態系」と話をしていた部分。
自分たちのサービスデザインにおける生態系において、問いはたくさんある。

どんなユーザーか。
そのユーザーは何を大事にしているのか。
サービスを担うステークホルダーがどのくらいいるか。
そのステークホルダーはどこにいて、何を大事にしているのか。
自分たちは何が強いのか。何が弱いのか。連鎖関係のどこにいて、どこにむかっているのか。

一つ一つの問いをひもといては、新たな情報設計と、情報設計のプロセスをデザインしていくのが私の仕事になってる。

変容する『進行管理』の意味合い

ディレクターとして1~4年目くらいまでも、もちろん情報設計はやっていた。
ただし、依頼された案件を見やすくわかりやすく整理するという情報設計。
進行管理は、エクセルでスケジュールをひいて、それを守って納期どおり進めていくというのが中心。

ただ、ここ数年その進行管理がかわってきたように思う。
そもそも『何を作るのか?なぜ作るのか?誰につくるのか?』自体をクリアにしていくことが求められてきたのだ。
いわゆる上流工程の進行管理も含まれてきたんだと思う。(下流工程もやるけどね)

この上流工程の進行管理にかかせない力が5つあるなーと最近は思う。

  1. 越境して、相手の思いや考えをひきだす力
  2. 皆の考えを可視化する力
  3. 考えを可視化したものを、現実のデザインに具現化する力
  4. 可視化したものを評価し伝える力
  5. 続ける力

『越境して、相手の思いや考えをひきだす力』『皆の考えを可視化する力』

このあたりは、IA CAMPでの三澤直加さんのプレゼンがすごくいいなーと思ってる。

役割を超えた人と人が、交わり考えるために、IAに必要なことは?
「相手の立場になってきく」「考えを可視化する」
その人ならではの情報を そのままの想いと共に抜き出し “それが伝わるように編集する”
⇒次のアクションを生むIAへ
「顧客から引き出す技術」–インタビューとグラフィックファシリテーションの共通点 by 三澤 直加 – presentation from IA CAMP 2015

自分一人でのアイディエーションなんて、所詮限界がある。
いつも予定調和になるのだ。一人だとはやいけど、たいして遠くにはいけっこない。
ユーザー、ステークホルダー、いろんな立場の人の気持ちがみんなわかるわけでもない。
だから越境して、相手の立場を理解し、思いや声をひきだすのがデザインの第一歩になるんじゃないかなと思ってる。

そして、思いや声、考えといった見えないものを見える化していく。
この「見える化」の段階でディレクターとして一番大事なのは、自分の意見をその中でひからせるスキルではない。
よいアイディアを多くのメンバーからひきだし、その見える化自体をつかさどることだ。

『考えを可視化したものを、現実のデザインに具現化する力』

次に求められるのは『考えを可視化したものを、現実のデザインに具現化する力』。
これがないと、絵に書いた餅ビジョンを掲げる人にしかならないので。。
具現化したと認めてもらうには、最低でも情報設計(IA)の技術が必要なんだろうなーと思ってる。

・子供のアイデアはそのままつかえるわけではなく、そのイメージを具体化・精緻化するのはプロのデザイナーの仕事。大人にはない発想を取り入れるために計画的に巻き込んでいる。
子供と一緒にデザインする方法 Kamihira_log in Copenhagen

この具体化・精緻化するための理想はフルスタックデザイナー。
情報設計もグラフィックデザインもマークアップもエンジニアリングもなんでもござれ状態になると無敵かと。

任せられる部分は人にまかせるのもありだけど。
任せる部分が多い=ある種の信頼とコミュニケーションにかける力、プロがいる前提が必要にはなるので、制約がでてくるのも事実だというのは肝に銘じるべきだと思う。
自分の技術とコミュニケーション能力と信頼貯金から判断して、何のスキルを磨いていくべきか、活躍できる場はどんなところか考えるといいのかもしれない。

『可視化したものを評価し伝える力』

実際にデザインができたら。実際に評価する力が求められる。
ここって評価する具体的な知識とか手法以上に、自分のデザインを壊す勇気が一番大事なんじゃないかとも思うのだ。
言いかえると、自分がベストだと思った案がベストじゃない、もっといいものがあるから壊して作りなおそうと評価できる勇気。

もうひとつ。「生きてるよ~成果でてるよ~」と数字で伝えていく力がもとめられると思う。
評価としてログ解析等ビジネスにいきる評価を行い、データをビジュアライズして、組織に伝えていく力だ。
この力は信頼貯金=生態系の中で他者からみた生命力を徐々に増やしていく行為に他ならない。

『続ける力』

そして最後に。
続ける、というのが一番必要なパワーなんじゃないかと思うのだ。
成果なんてそうすぐでやしないし、大きい変化を生態系に一気にもたらすことなんてできない。
1匹、また1匹というように、小さいひなを育てていく力が必要だ。

一つの生態系に変化をもたらすことがどれだけ大変かは、NHKスペシャルの「小笠原の海にはばたけ ~アホウドリ移住計画~」を見てると実感する。

そんな絶滅の危機に瀕したアホウドリを人の手で復活させようという計画が、8年の歳月を経て、今年、ついに成功のゴールにたどり着いた。「アホウドリ移住プロジェクト」。
主な繁殖地、伊豆諸島の鳥島が噴火の危険があるため、350キロも離れた小笠原諸島の無人島に、安全な繁殖地を新たに作ろうという壮大な計画だ。
まずは生まれたばかりのヒナを小笠原に移し、人の手で育てて巣立たせる。ヒナは成長後、育った場所に帰って繁殖する習性があるので、新天地で結婚と二世誕生までこぎつければ、あとはアホウドリ自らの力で継続的に繁殖できるようになるはず、という計画だ。
前例のない試みのため、ヒナのエサやりひとつにも苦労の連続。研究者たちは様々な困難にぶつかりながら手さぐりで試行錯誤を続け、今年ようやく、人工飼育したアホウドリが2世を誕生させたことが確認された。
小笠原の海にはばたけ ~アホウドリ移住計画~

アホウドリの移住。
ただ移住するだけなら、かたっぱしからアホウドリをつかまえて、別の島へうつせばいだけだけど。
アホウドリは生まれた島に帰ってくる習性をもつので、ある一時期だけ島にいる鳥をうつしても、またすぐにアホウドリは島へかえってきてしまうため、何も問題は解決しない。
ひなを別の島へ引っ越しさせて、その島でひなをそだてて、数年後うまれた島へかえってくることをまち、またそこで新たなひながうまれ育つのをまつ・・・という長期的な計画が必要となる。

その長さ、8年。
ただただ頭が下がる思いだ。

本当に生態系を変えたい、て思うなら。
長期戦は覚悟しなければいけないし、まずはじめるのは小さいところからだ。
webデザインの現場なら私はだんぜんユーザーテストから開始をおすすめ!
成功したら生存を伝え続けるし、失敗しても「失敗したけどこんな学びがあったから次にこういかせるぞ」と次へいかす。

この明日を作る小さいくりかえしこそが、生態系に新たな影響を及ぼしていくんだと思う。

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正直、自分が生きていくために生態系を変えるのって割にあわないかもしれない。
どうやっても変わらない、変わろうとしない生態系だってあるだろうし。
だとしたら生きやすい生態系に移動する=転職するっていうのも十分ありなんじゃないかなとも思う。

どんな組織が変化を受け入れず滅びゆく生態系となってしまうのか、をもう少し深掘りたいので。
終戦70年目だし、8月なので次は『失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)』読んでみる予定。

私は今の自分がいる生態系=会社がなんだかんだいって好きなんだと思う。
信頼できるバディ的な同僚がいること、尊敬できるエンジニアがいること、挑戦させてもらえる環境を上司にたくさんつくってもらってこられたこと。
今同じ生態系にいるメンバーも、これから生態系に移動してくるメンバーにも、住みやすい世界にしたいなと思う。

※補足 アホウドリの写真は以下より引用。鳥さんかわいい。
http://free-photos.gatag.net/2014/09/21/140000.html
著作者:JJ Harrison

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