ビジュアルファシリテーターの阿呆な研究

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会社での出世とUXデザイン

「UXデザインを組織で活かそうと思ったら、偉くならなきゃいけないですよね?」某制作会社のUXデザインのエバンジェリストさんのお話を伺った時、いてもたってもいられず私はそんな質問を投げた。周囲の同僚はどんびきして、次に笑った。

あいつまたアホなこと言ってる、という空気。

でも私は真剣に考えてた。
UXデザインを学べば学ぶほど、私は痛烈に、偉くならなきゃ、って思ってたのだ。

偉くならなきゃいけない理由

答えは簡単で、「信頼感を持って」「サービスにまつわる意思決定を任せてもらえるようになる」からだ。偉いとかいってはいるものの。別に役職はなんでもいい。要は組織の中で相応の影響力を持つことが大事なのだ。
事業会社の命運を握るのはサービスそのものだ。そのサービスの「どこに手をいれると、ユーザーが喜んでくれて、会社に利益をもたらすか」を考える・・・それがUXデザインだと私は思ってる。

UXアドベントカレンダーで、トリを飾った千葉工業大学の安藤先生の記事も、近いことをいってるんじゃないかと思う。

UXDにおいてデザイン対象は提供する体験の種類や内容、そしてその質向上です。しかし問われているのは、UXのどの範囲をデザイン対象とするかを決めることだということです。単に自社のWebのコンバージョンのみを指標と考えUXDの範囲を定義していたら、それはいかにも矮小化されたものだといえるでしょう。逆に広くとらえすぎても、これもまた無意味なものになってしまうでしょう。つまり、デザインすべき体験の輪郭をデザインすること。UXDの本当の難しさはここにあると思います。デザインすべき体験の輪郭をデザインすることを、UX戦略と呼び変えてもいいでしょう。
http://andoken.blogspot.jp/2013/12/blog-post.html

「デザインすべき体験の輪郭をデザイン」することの難しさ

UX戦略を考えること〜「デザインすべき体験の輪郭をデザイン」すること〜は、非常に難易度が高い仕事だと思う。
デザイン能力のほか、立場の違う組織の人々を束ね、まきこんでいく力が求められるからだ。例えば立場の違いは以下のような例が挙げられる。

コストセンターとプロフィットセンターの存在

特にデータドリブンな社風をもつ組織では、プロフィットセンターのほうが意思決定にどうしたって有利だ。
私が勤める会社は、データドリブンよりでコンバージョンレートという言葉がどの部署からも当たり前にでてくる文化だ。数字でものをいうことが求められる。ゆえに、その分数字化できない部分の重要性を組織内で述べていくのが難しい面もあるのも事実だ。

例えば旅行事業では、商品購入後からユーザーが実際に旅立つまでは時間がある。その出発までのユーザーケアも、ユーザーの旅行というUXを司る大事なポイントだ。ただし、ここに対して工数を投入しようとすると、その論拠が必要となる。意思決定のために無理矢理「お客様対応がwebで完結するので、事務の人員を○人日減らせます」と数字化しても、コストセンターのコスト削減話にしかならず、プロフィットセンターの提案する利益施策が優先されがちとなりやすいのではないだろうか。

サービスに関わる部署ごと・人それぞれが持つ「ゴムのユーザー」

サービスに関わっていると、営業、企画、サプライチェーン、制作、エンジニア、ユーザーサポート、それぞれがそれぞれのユーザー像を描くようになる。時にそのユーザー像は現実と乖離して、その部署やその人ごとに都合よく伸び縮みする「ゴムのユーザー」になってしまう危険性もある。

たとえば、営業の人は「自分のサイトにのせている広告は、若い○○なユーザーに役立つ情報だ!だからユーザーはこの広告を踏んでクライアントのサイトへ訪問する!」と考えて日々webサービスと関わっている。だから広告バナーは目立つ位置こそ命だし、よりキャッチーでいろんな導線にいればいるほど、ユーザーの注目をあびる=クライアントからの実入りも大きくなり、会社へ利益をもたらせる。

他方、サプライチェーン側の人間からみれば、必要なときにユーザーへ商品を見せ、届けることが至上命題だ。「ユーザーはこの時期これがほしいはず!だからこの商品を先に仕入れておいて、先に余剰在庫は極力へらすよう商品露出を強めよう。」と考える。サプライチェーンの最適化こそ、会社に利益をもたらすものとして意思決定がなされる。

どちらもユーザーのことを考えてはいるが、自分たちに都合のいいユーザー像部分を抽出するあまり、向かう方向性がばらんばらんになってしまう。その結果、ECサイトでは検索結果画面や商品詳細が面はえてしてカオスとなる。至る所に並ぶカラフルなバナー、ぱっとみ区別が全然つかない、似たような商品の羅列。全体として、ユーザーの意思決定を損ねてしまうことにもつながってしまう。

このカオスを調整していくのが、UXデザイナーのお仕事じゃないかと私は思うのだ。カオスを一個ずつひもといて利害関係を整理し、ゴムのユーザーを普通のユーザーに縮め、サービス全体の最適化をしていく重要な役目。

例えば、よくあるニュースサイトやECサイトで存在するサイドカラムの例はわかりやすいと思った。

「右カラム無視」への対策多くのWebサイトクリエイターの考えに反し、サイドカラムはグラフィックが少なければ少ないほど、ユーザーからは注目される。デザインをさりげないものにして、内容はコンテンツに関連のあるものにしよう。そうすれば、右カラムはあなた方のサイトに価値をもたらしてくれるはずである。
http://www.usability.gr.jp/alertbox/fight-right-rail-blindness.html

うんうん、そうなのそうなの!でも。そうはいわれても、どれだけの人が社内の利害関係者を説得し、調整をしてゆけるのだろう。
少なくとも、経験が浅い、ぽっとでの新入社員が楽々こなせる仕事ではないんじゃないかと思う。

「この件は自分の部署(役割)にとってはメリットが少なさそう。けど、サービス全体でよくなるってこの人がいってるなら、んじゃー力になってみようかなあ」そう思わせるもの・・・組織での信頼度、意思決定する正当性が、UXデザインには必須のものだと思うのだ。

組織でUXデザインに関わるとき、UXデザイナーを助けてくれる武器

私は別にえらくなんかないし、UXデザインを偉い人たちの手だけに委ねる気は毛頭ない。ふっつーの一般社員でも、淡々と自分の信頼度をあげていく努力をしてけばいいんだと思ってる。信頼度をあげるツールとして、有益なのはやはり「定量評価」と「定性評価」だ。この二つは、UXデザイナーを助ける武器になってくれると私は信じてる。

何かの施策を実施するたびに定量評価をして具体的な数字をだしていけば、施策の成功失敗いずれにせよ、客観的に皆が判断できる指標は提供できる。施策なんて失敗するほうが多いんだから、失敗したらラーニングを得て次の仮説をたて、意思決定につなげればいい。大事なのは、成功というより客観的に皆が判断できる指標そのものを提示し、組織の意思決定の役にたつことだ。

また、定性評価についても同様だ。ユーザーテストしました以上終了、ではなく、総括して、改善ポイントをすべて洗い出し、組織に重要な生の声はリアリティもって周囲へ届け、改善施策を組織のいろんなメンバーをまきこんでいく。信頼をひとつひとつ丁寧に積み上げる。その過程の一つ一つこそ、UXデザイナーの仕事の真骨頂だと思ってる。

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出世したいかどーかなんてよくわからない。
けど、私は、サービスに関わるなら、より深くより広く意思決定にコミットできる力はほしい。
自分の分析能力しかり、UI設計能力しかり、他の人からの信頼力しかり。

大事に思うひとの人生に深くコミットするために結婚するように、大好きな何かに深く関わるためには、相応の立ち居ちが必要なときもある。
まだまだ私は力がたりないから、必要なとき力をつかえるよう、一個ずつ小さい信頼を積み上げていきたいなと思う。

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