ビジュアルファシリテーターの阿呆な研究

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30代以降のwebデザイナーの転職の難しさについて語る

img_150329「事業会社でwebデザインできるデザイナーって少なくない?!30代なんてほんと少ない!!」
デザイナーの友人と飲み会にて、ふとそんな話になった。

私はwebデザイナーではないけど、採用にも関わってる中でデザイナー採用の難しさは感じてるし、勉強会とかであった他社の人からも同じような声をきく。
でも、転職したいといって転職活動をしている30代のwebデザイナーが多いということも肌感で感じている。この状況ってなんなんだろう?と思いぐるぐる文章をまとめてみた。
※あくまで私の周囲の観測範囲内の話、という点ご了承ください。

30代以降のwebデザイナー転職によくみられる傾向

特に個人的な観測範囲でよくみるのは、30代中盤以降の女性のwebデザイナーの転職が難航しているパターンだ。

  • DTPからwebデザインに入りグラフィックデザイン歴が10年以上で、紙とweb両方のグラフィックデザインができることも多い。
  • 事業会社に派遣社員として長く働いている。事業会社ではランディングページ等のデザインをしている。
  • 転職理由は様々だが、ラダーアップすると「派遣社員として事業会社で仕事できてたし、落ち着きたいので事業会社に正社員で就職したい」。

勉強会とかでこの種の方の転職活動の話をきいたりする機会も多いのだけど。
状況をきけばきくほど、すごく狭き門を目指してるように思えてならないのだ。

30代以降のwebデザイナー転職が難しい理由

事業会社における『30代以降の』デザイナーの求められる役割の広さ

事業会社において、正社員デザイナーが30代以降、特に30代中盤以降に求められるスキルって、実はすごく多いのだ。
『LPデザイン』では相当なデザイン的な美しさは必須。
さらに、そこにUIデザインの経験とか、UXデザインとか、PDCAまわすとか、デザインガイドラインの作成とか、マネンジメントとかがのっかってくる。
のっかる量は年齢に比例する。

デザインは設計。事業を支える役割が求められる。
派遣社員でLPのグラフィックデザインをするのとは違ったものが求められるシチュエーションがとても多いように思う。

このシチュエーションの違いを理解することはとても大事。
グラフィックデザイン単体がものすごく美しくできる、という人を採用する企業はごくわずかで、超狭き門だ。

制作会社にいたらクライアントから「○○さんがいるから発注します」と名指しで指名され続けるとか、コンペ常勝のエース級人材。
もしくはデザイン系コミュニティで相当活躍してるとか、dribbbleで日本海外から評価されてるとか、フリーでも余裕で食べていけるレベルのグラフィックデザイン能力必要なんじゃないかと思う。
このレベルに到達できる人はごくわずかだ。

だからこそ、グラフィックデザインとかけあわされたスキルをもっておくことが大事なわけで。「今まで事業会社でグラフィックデザインを派遣社員としてやれてたんだから大丈夫でしょ」って思っていると、相当転職活動は難航する。

累積的な経験に基づいて、受託制作会社やスタートアップ的事業会社を転職先候補としない

また、えてしてこのタイプの人は受託web制作会社は『そもそも受けない』ように見える。
web制作会社やプロダクション=不夜城、的なイメージが10年たった今でも根強く持っているからだ。

たぶんそれは、過去の自分の経験に基づく判断のように見える。
体力的精神的なことを考えると(昔の自分のような)20代の人と何回も徹夜ってのはツラい。
あと、生活面。結婚してたり、お子さんがいらっしゃると、そうした不夜城に籠る働き方がちらつくと、転職候補にはなりづらい。

また、派遣社員の頃にいたレベルの会社(=派遣社員を多く雇う力のある大手の会社やそれに準ずる体制のところ)を受けているんじゃないかな、とも思った。
だから事業会社とはいっても、スタートアップ的な会社で働こう、というような視点にもならない。
派遣社員として働いていた経験上、仕事のイメージ・お給料のイメージがつきやすい職場を選んでいるのだと思う。

20代vs30代、webデザイナーの市場競争の状況

グラフィックデザインのスキルは、経験を積めば積むほどのびる傾向にはあるものの。
伸びるスピードの早さは個人によってまったく違い、30代後半のデザイナーよりも20代前半の貪欲なデザイナーのほうができる、ということは頻繁にある。

2000年代から、大学で特に情報系の学部が新設され、情報デザインやグラフィックデザインを体系的に学び実践できる機会が増えている。
また、コミュニティ活動(UX○○とか)も活発になってきて、大学生がどんどん参加している。

昨今の新卒~20代中盤のデザイナー達は、私のような30代の現場たたき上げよりもよっぽど体系的な知識を持っているように見える。そして貪欲。
この人たちが数年後どうなってるんだろう、って思うと、正直危機感しか感じない。

30代webデザイナーは、こうした若き優秀なwebデザイナー達と転職市場で戦うこととなる。
ただでさえ、『20代=若い=成長性があるんじゃないか』『30代=自分のやり方が身についている=成長性は20代より低い』とみなされがちな転職市場において、グラフィックデザインスキル一本で転職市場を戦うというのは非常に難易度が高い行為だと思う。

逆に、複合的なスキルを持っている人は、いとも簡単に転職を決めている状態だ。
転職活動はじめてから内定でるスピードはやすぎる&組織で囲いこまれるから、知人等の観測範囲内でないかぎり、転職市場ではもはやほとんど出会えないレアキャラさん状態・・・・。

インターネットの技術革新の速さと、デザインの関係

求められるデザインは常に変わっている

webデザインは、インターネットの技術が背景にある。
インターネットの技術は日進月歩どころか凄まじいスピードで進化しており、それに応じて求められるデザインも変わってきている。

そもそもPCやスマホのスペックが年々上がってきていることで、webデザインはどんどんできることが広がってきた。
ajaxはもはや当たり前すぎるものだし、HTML5やcss3ではテーブルコーディングでは考えられなかった様々な表現を即座にできるようになった。

デザインの潮流も変わっている。リアルの世界をモチーフにしたスモーキーフィズム→スキューモーフィズム から、webは私たちの世界でひろがり、アプリとして生活に密着しどんどんリアルなものとなってきた。
そして、新たなリアルを効率的に実現させるためのフラットデザインが生まれた。

また、従来のブラウザ中心のwebデザインは、図書館学をベースにしたディレクトリ構造中心で、ユーザーがPCの前でしっかり見てくれること前提で設計されてきた。
しかし、インターネットやスマホ、ウェラブルデバイスの広がりとともにユーザーの生活に密着することで、あるべき姿は『ユーザーの生活の中での利用状況における体験で使えるもの』になってきている。(よくいうIoTである。※2)

ユーザーは紙やブラウザの前で、ただそれを眺めているだけではないのだ。
台所で料理の片手間にちらっと数秒見るとか、公園をランニング中に走るスピードをできるだけ落とさないように情報を把握するとか、利用状況は多種多様である。

※1 誤字でした。正しくはスキューモーフィズムです。コメントくださったabcさん、ありがとうございました。
※2 4/6追記 
IoTここの記載、論理が飛躍しており間違っているので、取り消します。
現在あるデバイス以外の様々なものも、インターネットに繋がってくることで、『ユーザーの生活の中での利用状況における体験で使えるもの』のデザインがよりもとめられてきてる流れを説明したかった部分でした。

端的なデザイン手法ではなく、手法の根底にあるものを見ることの大事さ

webデザインで食っていこうと思うなら、この流れの根本的な変化こそ、デザイナーが把握し学ぶべき一番のことだと私は思う。
例えば「パララックスのページデザインできるように勉強しました」というのは明日使えそうと言う意味合いではわかりやすい。
でも、パララックスは実現したい何かを達成するためのいち手法でしかない。
その手法を学んだだけで食べていけるなんて到底思えない。

他にもグラフィックデザインにおいて、1pxの生みだす美しさ、フォントの徹底的なこだわり、最新版のphotshopの効率的かつ美的なものを生み出すための使い方とか、どれも大事だとは思う。
でも、美的なものの最先端を成すということは狭き狭き門だ。
社会で食っていくにあたって、そうした生き方をできる人はごくわずかしかいない。

webデザインの現場で求められるのは、美的な美しさや最先端の技術的TIPSだけでは決してない。ユーザーにどう価値を感じてもらうか、組織としてどうやってデザインと事業を成していくのかというのが根本だ。
それは事業会社でも、受託制作会社でも、なんら変わらない。

この根本を理解しないままwebデザイン業界で転職活動したり働き続けていると、正直キャリアは先細りになる一方だと思う。
なまじ本人は真面目なので、TIPS勉強する→転職活動うまくいかない→さらに手法を学ばなきゃと思い詰めてあまりの膨大さに疲れる→「自分はだめなんだ」とあきらめる・・・という悪循環パターンにはまっていく。

webディレクターにも同じことがいえる

なお、変わっていくデザインを捉えていく大事さは、webデザイナーのみならず、webディレクターにも十分にあてはまることだと思う。
webディレクターは進行管理の技術が必須だけど、そこにデザインの企画設計力(構成案、ワイヤーフレームを書く力)や技術力(デザイナーと同様最新の技術をデザインに活かせるように知っておく力)が必要な場合がほとんどだ。

この企画力というものは、成果ではかられる。成果とは、事業に貢献するもの、意思決定者の承認や合意形成をいち早く得るものだ。
この事業貢献への精度が高いか低いか、意思決定者の合意を即座にとれるか否かはwebディレクターとしては大きなスキルの差だ。

事業貢献が誰かが決めた中で、誰かが意思決定をすぐできるように計らってくれる環境は働きやすいけど、同時に生存能力が伸びづらい場所だとも思う。

webデザインに関わる者が学ぶべきこと

ある日周囲をみたら、デザインすべきものががらっとかわっていた。
自分はその知見をほとんど持っていない。
転職市場における価値は、気づけば大幅に下がっている。
とても怖いことだと思う。

とはいえ、人生ずっとフルスピードで学び続けることはできないから。
web業界で働きつづけることを前提とするならば、せめて年単位で学ぶ時/スピードゆるめる時決めて、緩急つけておくのが現実的解だ。
学んでる間は年収が多少下がったり、時間を得るために生活を調整したりする必要性がでてくるけど、投資と割り切る。
戦略的な自分への投資は、必ず未来に金銭的価値・感情的な価値として帰ってくるものだから、投資対効果はずいぶん高いと思う。(金の亡者じゃなければ。)

そして、力をいれて学ぶべきなのは明日使えるTIPSではない。
技術の発展にともない、デザインの求められる役割がどう変わってきているのかという潮流と、どうすればその役割を美的に、しかも組織で実現できるのか?という点ではないだろうか。

——

このあたりの話は、書いた自分自身とても危機感を感じてる部分でもある。
私は受託制作会社やってた頃からEC中心で、事業会社もECだ。
しかも旅行なので高額決済=PCの前に座ってちゃんと決済するシチュエーションが多数。

融けるデザイン ―ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論を読んで、自分がブラウザの前のユーザーのためのデザインばかりやってきていることに、心底怖さを感じた。

私のつくってるデザインは、今後も一定は求められるものだろうけど、主流ではなくなっていく。

もちろん、ブラウザの前にたまたまいるだけで、その前の累積的体験や思考のデータを集め、分析し、可視化しサービスに落とし込むスキルは(自社で実務をまわせるレベルには)持っている。
だけど、もっと生活に融けたデザインをやりたい、いややらなきゃ、って思った。

現在の自社でもしすぐそれが得られなくとも、代替するプロジェクトに週末参加するとか、長期的にチャンスを狙っていくとか、転職するとか、実現手法は意外とたくさんある。
やりたいことはネチネチ狙って実現していくタイプなので、2015年度はそうした新たな挑戦をしていきたいと思う。

↓融けるデザイン、デザインに関わる人は必読の書だと思いますよ~。潮流がすごく良くわかる。

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Comments & Trackbacks

  • Comments ( 4 )
  • Trackbacks ( 0 )
  1. スモーキーフィズム→??

    スキューモーフィズムでは?

  2. abcさん
    コメントありがとうございました。
    誤字でした。お恥ずかしいかぎりです・・・
    修正いたしました。ご指摘助かりました。

  3. で、解決策はなんでしょうか?30代後半のWEB関係者より。スタートアップ的事業会社ってのは確かに採用が緩い気がします。そうそうWEB業界もこんだけ情報があふれてますが、人手不足って所おおくないですか?

    • びびーるさん
      コメントありがとうございます。

      「解決策は何か?」という問いについて質問です。
      「どんな仕組みが社会にあれば(これからの)webデザイナーの採用がうまくいく解決策になりえるのか?」という問いでしょうか?
      だとすると、大変恐縮ですが、私に解があるわけではないです。
      申し訳ありません。
      また、その問いにこたえきるほどの知識や意見があるかというとNOですが、すごく大事な問いだと思います。

      このブログ記事で扱いたかったのは、「どうして転職したいと考える30代デザイナーと、人材不足に悩む企業がすれ違うように見えるのか?」という問いであり、現場でデザインに関わる者の目線から考えたいという意図でした。
      それゆえに、せめて個人レベルから「個人が働いていく中で、技術やデザインとこうつきあうべきでは?」という意見をだすのが精いっぱいだなと思います。

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