ビジュアルファシリテーターの阿呆な研究

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『手を動かさない』webディレクターが、事業会社でUXデザイン的な仕事をするということ

160810_2_img昨日、『意味不明なことばかり言ってるUXデザイナー達の代わりに「UXデザインとは何か」を端的に説明しよう』という記事がバズっており、その記事をきっかけに自分の周囲でも、いろんな意見をきくことができました。
そのまわりのいろんな人の言葉から、私自身は『専門家という立ち位置の難しさ』と、『手を動かさない、webディレクターとしての仕事』についてあらためて考えていました。

いくつか考えたことについて、つらつらかいていきます。

「UXマン」て誰なんだろう?

でもね、世に言う「UXマン」っているじゃないですか。
いかにも自分は上流工程だと言わんばかりに様々なフレームワークや聞こえはいい理論を振りかざしているにも関わらず、自分では手を動かしてモノをつくらないし、いざつくってもらったらアチャーなアウトプットだす人たち。
『意味不明なことばかり言ってるUXデザイナー達の代わりに「UXデザインとは何か」を端的に説明しよう』

これ読んだとき、「UXマン」的な人、まわりにそういるかなーうーん・・・としばらく考えてしまいました。
私は産業技術大学院大学人間中心設計履修証明プログラムに通って、人間中心設計専門家もとっているというなりゆき上、はたからみたとき『アカデミックな集団』的に見えるところには属しているんだろうけど。
見えているのはこんな人たちが中心です。

・産技大の同期や先輩方、デザイナーで実際に手をうごかせる力をもっている人が多かった。
・デザイナーもディレクターもエンジニアも、理論だけいってもどうにもならないというのをわかって、「じゃあどんな一歩を現場でふみだしたら、ビジネスに貢献できるんだろう?」って悩みながら現場で戦っている。
・(あと、方法論と理論をどう活かしたらいいのかまったくわからず、悩みながら同じ仕事を続けている人)

方法論とか理論をふりかざしまくってアウトプットがいまいちな人って、自分が見えている範囲にそう見えないなあ・・・という印象なのでした。。
(たぶん、著者の方と所属している組織規模や行動範囲がちがうのだと思います。)

ただ、「アチャーなアウトプット」についての反応は、ものすごく感じる部分あり。
とりあえず私は事業会社なので、「アチャーなアウトプット」=ビジネスに対する成果がでてないもの、見えないものと定義して話をすすめますと。
別にUX以外のどんな分野でも、『専門家』がその専門性や理論を、組織の今のステージにあわない状態で無理矢理導入しようとする、理論を背景におしつける姿勢をとると、結果として「アチャーなアウトプット」=ビジネスに対する成果がでてないものになってしまいがちなのです。

私は別の分野でそういうシチュエーションに出会ったんだけど。
専門家:「自分はこんなに素晴らしい理論をつたえているのに、なぜまわりは理解できないんだろう?もっとみんなが勉強するように、自分がたくさん教えて、がんばらなきゃ・・・」
メンバー:「理論はわかるんだけど、それって事業の成果にどうつながるんだろう、でも正しそうなこといってるしなあ、もやもや・・」
評価者:「このチームの成果って見えないなあ・・・。なんかがんばってはいそうだけど、チームとして成果は見えないし、メンバー間の関係性もあまりよくもなさそう。何をしているんだろう?」
という状況。

なお、そうした過ちを自分自身犯したことないか?といわれると、絶対にNOで。
「私は何かしらの専門家だけど、そんな過ちをおかしたことがありません!」て言える人、どのくらいいるのかな?と思うのです。
私自身、常に悩みながら手探りで進めている状態で、一番に自分のために、自戒をこめてこれを書いています。

こういうとき、事業会社での何かしらの専門家に求められるのって以下のような役割なのではないでしょうか。

  • 専門知識をベースに行う活動をやる前に。今のチームがどんな状況なのかを知ること。関係性を築くこと。
  • 専門家一人のもつ専門知識を教える、のではなく。チーム全体で考えていくという場をつくること
  • 数年がかり、成果がでづらいのは既存の組織ではあたりまえなので、ねばりづよくトライ&エラーする根気があること
  • 専門家の持つ専門知識をベースに行う活動が、ビジネスの成果にどうむすびつくのか『事業の成果としての数字』で徹底的に証明すること。事業者と同じ共通言語で語れること。専門知識のすばらしさそのものが事業の価値ではないと理解すること。

専門家になること自体が粘り強さが必要なことだけど。
もしそのねばりづよさを、『専門知識そのものの価値証明』『ひいては自分の価値の証明』に利用したいのであれば、事業会社は非常に適さない場所だと思います。
たぶん、その知識そのものが価値になる、他の所にいったほうが幸せな働き方ができるのかもしれません。

「手を動かしてモノをつくらない」人間が覚悟しておくべきこと、正直いってあると思う

私はwebディレクターで、IAまではやりますが、デザイナーやコーダー、エンジニアからみると「手を動かしてモノをつくらない」という部類に入ります。

坪田さんが書いているキャリアの流れに、仕事内容がなっているかんじ。
「理論振りかざして上流にしがみつく行為は老害化」というのは「専門知識のすばらしさそのものが事業の価値ではない」を見失ったときになる状態なのかな・・・と思います。

そうそう。webってつくってなんぼなんですよね。
そして、つくってどんどん試して、改善していける。
プロダクトのようにいったんつくると、型をつくったり工場稼働させなければいけない状況においては、エスノグラフィーのような丁寧な調査は必要性が理解されやすいと思うのですが(だって一度つくったらすぐチェンジ、なんて難しいもの)、web業界は違います。

また、web業界の場合、MVPつくってリリースして、ログという数字(多様な指標や大量のデータをもつことができる)でラピッドに評価をしやすいという背景もあり。
そもそも、人間中心設計におけるエスノグラフィをはじめとした時間やコストのかかるリサーチに『事前に』しっかり時間をかけるということは、プロダクト系と比べると少ないと思います。
また、おのずと優先順位も低めになります。

そんな「つくってなんぼ」の世界で、webディレクターのような「手を動かしてモノをつくらない」人がプロセスに入る場合。
「ビジネスの成果に、どう自分が寄与できるのか?その分野はどこなのか?」というのは、デザイナーやコーダー、エンジニア以上に考えて挑んでいかないと、『ただの進行係→(坪田さんのように自律して成果に責任もてる人たちが現場にいると)いらない』になって当然だよなとも思うのです。

さらに、そのときの『いらない』という感触は、ただのいらない、ではなくて。
・正論だけふりまいて解決策ださないならいないほうがマシ
・正論いわなくても、思い付きでものをいうならコミュニケーションコストあがるからいないほうがマシ
というくらいの状況も発生します。
(このへんは、構成案を書けるディレクターが、ふんわりしたオーダーで微妙な仕事をしてくる営業やマーケターに対して「お前ら邪魔じゃ!」と抱く気持ちと同じかと。。)

webディレクターって、手を動かす力がなくてもなれるのかと思われることもありますが。
そのかわり、何かしら、価値を感じてもらう強みがないと生き残っていけないシビアな世界です。
その価値自体、目にみえづらいから人にも伝わりづらいし。
キャリアとしてもどうのばしていっていいのかわかりづらい側面があると思います。うっうっうっ。
(でもそこで理論=価値として、「理論をいってる俺偉い」になっちゃだめだよー!!!)

「手を動かしてモノをつくらない」人間が、事業の成果にむかってできることってなんだろう?

僕が「UXとUIは別物です」と突っ込まれたり、一緒に語るなと言われ続けても、頑なにUI/UXデザイナーを名乗り続けているのは、考えたアイディア実現に移す所まで責任を持つのが仕事だと考えているからで、わざわざ切り離す必要も無いと考えている。
UXデザインを学んだその先にあるモノ

私自身も、自分を説明するときには、必ず『Webディレクター』という説明をしています。
広く、私が作る『事業の成果に結びつき、またそれを証明するデザインのプロセスづくり』が自分の責任範囲だと考えているためです。
私はIAまでが限界で(そこも人並みのレベルしかない)、手をうごかせないので、グラフィックはデザイナー、コーディングはコーダー、エンジニアリングはエンジニアというプロにまかせます。
以下に私の最近の仕事をあげてみたのですが。
メンバーが迷わず心置きなく制作できるような仕組みづくりが多そうな感じです。

  • 優先順位のコントロールは定量・定性調査に基づいて事業部側と綿密に行いまきこんでおく。
  • ユーザーの感じる問題点をユーザビリティ評価やログなどで客観的に評価し、チーム全体や上長に共有して、優先順位をつける。
  • フロントエンドの仕様書を書く。
  • 会議のファシリテーション
  • 「ユーザーの感じる問題点はこれ。どう解決する?」を、プロと一緒に考える場を作る。プロがよりよいアイディアをだすための材料をそろえる。一緒に悩み、考える。
  • プロのアイディアを活かすための、ネゴシエーションしっかりやる(「このアイディアは工数かかるけど、でもこういう背景があるので優先順位を上げたい。」みたいなネゴとか)
  • プロがより本職をまっとうできるような状況を作る(良い問いをなげる、大変な調査や調整は極力自分もふくめ分散するようにする)。
  • 国境、役割をこえて、問題の解決策を一緒に考えられるよう、データや状況をビジュアライズ化して、論点を整理する。
  • リリースしたら、誰よりはやく定量評価をベースに問題点や解決策案をだし、チームで事業成長のための優先順位や施策内容をまたつめる。
  • そして当たり前だけど、普通の進行管理や情報設計も行う。

どこまでがwebディレクターの仕事で、どこまでが他のロールの仕事なのかはわかりません。
でも、これは私が信ずる『事業の成果に結びつき、またそれを証明するデザインのプロセス』に含まれていることが多いし、上記の内容を積み重ねてはじめて、いくつかの試作でCVRや併売率等、事業の成長に大事な数字をあげてきたという経験があります。
(ちなみに、それでも施策は失敗するもんは失敗する!!全部はあたらねー!少しでもあたる確率あげるためにやるしかねーーーー)

現在担当しているプロジェクトの中では、ベトナムのエンジニアのリーダーが私の仕事を評して「お母さんだよね」といってくれました。
お母さん!!何かを生めていたなら幸いです。
他にも「一緒にやれてよかった」「azumiとじゃないとできなかった!」と他のロールのメンバーがいってくれたことが、私はとても励みになっています。

じゃあ結局。
お前のwebディレクターとしての仕事はなんなんだよ、という話に戻るのですが。
私はwebディレクターという職種やりつつ、(できる範囲で)UXデザインの仕事をしているという状態なのかもしれません。
UX、およびUXデザインの定義は以下を参照。

・ユーザーエクスペリエンス(UX)=製品やシステム、サービスの利用、および/もしくは予想された使い方によってもたらされる人々の知覚と反応 (国際規格 ISO9241-210より)

・UXデザイン=どんな体験をしてもらうのか計画すること、体験が量産・再生産される仕組みをつくること
UXの考え方とアプローチ Masaya Ando

「つくってなんぼ」の世界で、私は手を動かせないけど。
『どんな体験をしてもらうのか計画する』や『体験が量産・再生産される仕組みをつくる』ために、『みんなが考えるためのプロセス』をつくる人、、、というのが今の自分のwebディレクターとしての仕事なのかなと思う次第です。
(冒頭の記事でいってた「みんなでちゃんと企画すること」にもここは通じる部分かも。)

この思いは私も同じで。
手を動かす人たちがよい環境で働いて、正当に評価されるよう。
私は今の現場で、土台をつくり、プロセスをつくり、事業成果という数字をもってデザインの価値を立証しつづけたいと思います。
粘り強くね!!

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