ビジュアルファシリテーターの阿呆な研究

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クリステンセンの『ジョブ理論』早分かり実践セミナー<IMJ主催>に行ってきた

久しぶりに、IMJさん主催のセミナーに参加してきました。
思えば、人間中心設計・UXデザインを勉強しはじめてから8年間、相当数IMJさんのセミナーにはお世話になっていますね・・・
今回は樽本徹也氏の『UXリサーチの道具箱』新刊記念で、『なぜ、人はミルクシェイクを「雇う」のか?──クリステンセンの『ジョブ理論』早分かり実践セミナー<IMJ主催>』という内容です。

私はUXデザインを現場で実践するにあたり、樽本さんの書籍『ユーザビリティエンジニアリング(第2版)』等数冊を読み込み、トライアンドエラーを繰り返してきました。
布教するブログ記事を書き、実践積み重ね、また布教し。笑
私の職業人生を支えてくれたといっても過言ではありません。
なので、今回の新刊もわくわく。

・『ジョブ理論』てなんだろう?
・『ジョブ理論』が新刊で言及された意味はどんなところにあるんだろう?

そんな問いを持って、セミナーにでかけました。


あと、心境としては・・・自分の人生を揺さぶった作品をうみだしたアイドルに会いに行く、みたいな感覚です。キャーキャー。
hopeキャンバスの「期待していること」にはったところ。
IMJの方が思いをくみ取って、ハートマークで囲ってくださいました。

ジョブ理論とは何か?

「人は何らかの『ジョブ』を処理するために、製品やサービスを『雇う』」

そんな話からセミナーは開始しました。

例えば、ミルクシェイクを『雇う』時。
・朝の通勤の時間つぶし
・子供に対してやさしい父親を演じる
といった『ジョブ』があります。

「同じミルクシェイクでも、コンテクストが異なる。なお、コンテクスト=ジョブ理論だとcircumstancesという言い方をする」と樽本さん。
コンテキスチュアル・デザインで述べられていることと、ジョブ理論で述べられていること、とても近いんですね。
(非常に近いと思いつつ、じゃあデザイン文脈での『Context』と、マーケティング文脈の『Circumstances』て違うとこはあるのかな、というのがちょっと気になってはいる。)

『ジョブ』は2種類に大別されます。

・機能的ジョブ:成し遂げたいこと
・感情的ジョブ:感じたい気持ち
 └個人的:個人的な好み
 └社会的:社会的な地位

そして大事な点が二つ。

・「顧客はプロダクトが大事ではない。その『ジョブ』を完了して状況をよくしたい(=『プログレス』)
・「顧客は『ジョブスペック』を比較してから、『製品スペック』を比較する。」

顧客は状況をよくするために製品やサービスを雇うのだし、その雇うものの比較をする時には、同じ『ジョブ』を持つ者同士をまず比較するのです。
たとえば、今回のセミナーでは、ラーマ社のマーガリンが例に挙げられていました。

一見、ラーマ社のマーガリンの競合は、他社のマーガリンに見えます。
しかし、ラーマ社のマーガリンのジョブ=「フライパンを焦がさない」とすると。
同じ『ジョブ』を持つ競合として、既存のカテゴリーと全く違う、テフロン加工のフライパン、オリーブオイルが挙げられるのです。
その中で、どんな風にプログレスに貢献するのか/しないのかの度合いを様々な観点からみて、製品スペックを比較し、雇う=購入するのです。

「マーガリンの棚の中をみるのではなく、ジョブで見るんだ!今は異分野競合が主流となっている。異分野から現れた競合が、既存の製品の製品カテゴリーを破壊する。」

この樽本さんからの言葉、「あああああ」と思いました。。痛い。
マーケティングでマーガリン同士の棚を争っている、という状況を多々みてきていたので・・・・。
そして、私はいち担当者として、この言葉自体は理解していても、前職では力不足で苦しんで、その違和感をうまく事業につなげることができたとは決して言えませんでした。
その解を考えたくて、サービスデザインファームに転職し、楽しく面白く七転八倒という状況です。嗚呼。

マーケティングの分野からみたときに、ジョブ理論が用いやすい理由

続いて、ジョブ理論のポイントとして『フォース』という考え方が提示されました。

「フォース」=自社製品を雇ってもらうためには、ユーザーは何かを解雇する必要がある

【変化を促す推進力のフォース】
・押し→現状への不満 背中をおされて「変えよう」と思う
・引き→ソリューションへの魅力

【変化にあらがう抵抗力のフォース】
・惰性→まあこのままでいっか、という思い
・不安→変えて本当にうまくいくの?よくなるって保証はどこにあるの?という重い

これらのフォースで、推進力が抵抗力を上回れば、顧客は製品やサービスを雇う=購入することにつながります。

この『雇う/解雇する(hire/fire)』の考え方が、マーケティング活動していく際にとてもわかりやすい、受け入れやすいのです。

クレイトン・クリステンセン によるマーケティングの名著である『イノベーションのジレンマ』は、マーケティングの基本とされている「顧客の声、意見に耳を傾け、顧客の求める価値提供を行う」 という行為が、破壊的なまでのイノベーションの前では 逆効果、マイナスの要素にすらなってしまうという理論、考え方でした。
まさにここで指摘されている危機感、実際の事業を運営している人が日々囲まれている状況認識なんだろう、と思います。(私も事業会社にいた身としてよくわかる。)

しかし、「じゃあ破壊的イノベーションにむけてどうすればいいの?」の端的な答えが『イノベーションのジレンマ』にはないこと、その答えにジョブ理論がなっているのでは、いうことを樽本さんは指摘されていました。
(しかも、クレイトン・クリステンセン自ら!『ハーバード・ビジネス・スクール』というその背景も、事業者に受け入れやすい背景のひとつでは、とその後樽本さんやIMJの方と話していました。)

じゃあ実際に試してみよう!

というわけで、早速あるものの『ジョブ』を考えて、そこから『競合』やアイデアを考えていこうというワークショップへ。

まず、雇うものやサービスを選び、そこから『ジョブ』を考えます。

次に、その『ジョブ』と同じジョブをさせるのに、これまでどんな製品を雇ったか、雇おうと思ったか?(ないときはどうするか、どうしてたか)を考えます。

私達は、「共通の思い出をつくる」ジョブとして、テーマパークや食事を『競合』として挙げました。

さてここで、なんだかたくさん『競合』がでてきてしまいました。
樽本さんに質問したところ、「ジョブの粒度が荒いので、もう少ししぼりこんだほうがいい!」とのこと。
チームで相談して、もう少し状況が明確なものを選びなおし、さらに状況を明確にしました。


「非日常空間で共に過ごして、勢いをつけて、恋人になる」というジョブ。
「非日常」「勢いをつけて」がポイントです。大事じゃないですか。色々そういうの。
この『ジョブ』について、チーム内で話した後、休憩時間に他のチームにもきいてみる/きかれてみる、というお題もありました。
(なんか、簡単にでも他の顧客目線もいれるあたりが、アジャイルユーザビリティを彷彿として私はとても好きです♡)

そして『競合』をだした後、『ジョブスペック』を比較します。
「お金がかかるか」「勢いつくかどうか」「非現実度」など、どんどん考えていきます。

この比較後、2-3チーム同士で話した内容を共有していきます。
そして、最後に、チーム内でアイデア出し。
ジョブスペックを見ながら、アイデアを考えます。
・『×→〇にするには?』
・『〇→◎にするには?』
・『おなじ競合を組み合わせると?』
どんどん話していきます。

私達は(お金かからず物理的な距離も問わない)LINE+(非日常度高く勢いつく)映画館=何だろう、という視点でアイデアを考えていました。
日常的にはLINEでやりとりだけど、二人である瞬間VRゴーグルなどのタンジブルなものを被り、非日常の冒険を一緒の空間で行う・・・とか。

こうしたアイデアについて、樽本さんが指摘していた点が印象的でした。

・アイデアについて、すでに存在するか調べてみよう。既存にある=分析は正しい。
・こうした分析の価値は、市場についてプロフェッショナルではない人でも、1時間程度でそのプロフェッショナルと同等に近い、実現可能・持続可能性もあるアイデアに、たどりつくことができるという点である
・自分が担当するサービスで発想してみよう。発想するには『競合』があるとしやすいよ!

また、こうしたアイデアを形にしていくまでには、ユーザーインタビュー、ペルソナ、ジャーニーマップ、バリュープロポジションキャンバス、ビジネスモデルキャンバス、ユーザーストーリーマップ、スクラム(アジャイル開発)一連のイノベーションのエコシステムが必要である、とも。
なお、バリュープロポジションキャンバスのCostomer Profile(顧客プロフィール)の、Costomer Jobsの領域が、まさにジョブ理論の『ジョブ』とのことです。

私的には、ジョブ理論で、とってもこの位置づけが腑に落ちました。
樽本さんは、この『ジョブ』のところに、『競合』という欄も設けて記入しているとか。
確かに、そのほうがアイデア発想しやすいかも。

↓グラグリッドなごやんのグラフィックレコーディング。

相手に伝わる、切実な言葉で話していくこと~HCDを実践していくために~

ところで。バリュープロポジションキャンバスでの『ジョブ』の定義、改めて気になるわけです。

「仕事」とは、顧客が職業や人生で成し遂げようとしていることです。例えば、完了したい任務、解決したい問題、満たしたいニーズなどが、この「仕事」にあたります。
(中略)
顧客の仕事は主に次の3種類に分けられますが、その他にサポート的な仕事があります。
・機能的な仕事
・社会的な仕事
・個人的/感情的な仕事
・サポート的な仕事
バリュー・プロポジション・デザイン 顧客が欲しがる製品やサービスを創る より引用

そして、本書では、この仕事を考えるための大事な観点がいくつか挙げられています。

・顧客にとってすべての仕事が同じくらい重要というわけではありません。
・顧客の本当の「仕事」が何なのかを理解するために、「なぜ」と繰り返し自問しましょう。
バリュー・プロポジション・デザイン 顧客が欲しがる製品やサービスを創る より引用

この分析行為、KA法や、上位下位関係分析など、事象から行為・価値を考えていくユーザーモデリングの過程と共通しています。
なんか、色々共通している。
「じゃあ何が違うんだ!」「なんでこのプロセスであえてジョブ理論という必要があるんだ?」と思うのですが。

樽本さんが笑いながら言いました。
「ビジネスモデルキャンバスとの接続も考えて、その分野(マーケティング分野)の人に、受け入れられやすいからだよ!!」

確かに。
HCDのプロセスを用いようと思ったら、相手の文脈(コンテキスト)で伝わる言葉で話す、提案するのが一番です。
各HCDの手技法が、扱う分野や目的に応じてプロセスが洗練されて、名づけられて有名になっていったのと同じかんじです。


Web担当者のためのCX/UX関連用語と基礎知識: カスタマーエクスペリエンスに渦巻く超潮流とは より引用

上記の図でいうと、私、常にUXの視点、もしくはサービスデザインの視点で見がちだったな・・・・・と己を振り返り大反省。
相手に通じる、切実なことばで話していかねば!!!相手の世界をもっと知らねば!!!と、改めて気を引き締めたのでありました。

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